記聞(気分)「ある農夫の一日」
「ある農夫の一日」
ある農夫が、朝早く起きて、畑を耕そうとした。
ところが、トラクターの燃料が切れていたので近くまで買いに行ってきた。
途中で豚の餌をやっていないことを思い出して、納屋に餌を取りに行った。
すると、ジャガイモの発芽しているのを発見した。
これはいけないと思い、ジャガイモの芽を取っているうちに、
暖炉の薪がなくなっていることを思い出して薪小屋へと足を運んだ。
薪を持って母屋へ向かっていると、鶏の様子が変である。どうも病気らしい。
とりあえず応急処置を施し、薪を持って母屋にたどり着いたところ、
日がどっぷり暮れていた。
農夫は「やりやれ何かせわしい一日であったな」と思い返しながら、
一番大切な畑を耕すことができなかったことに気がついたのは、
床に入ってからだった。
仕事を終えた時には、皆一様に疲労感を感じるが、各自の「最も重要な仕事」が達成できているだろうか。
「農夫の一日」を読んで、どきっとした人は多いのではないか。自身も思い当たる一日を過ごしている人も多いのではないか。前述の「農夫」のように、汗をかき忙しい時間を過ごしても、各自に求められた責務が全うされていなければ、労働の汗も無駄と言わざるを得ない。
ここで「農夫の一日」を検証してみる。トラクターの燃料が切れていたのでは畑を耕すことはできない。養豚もジャガイモ生育も養鶏も大切な生命線であることは間違いない。暖炉の薪が切れていては、帰宅時に暖を取ることも叶わず、日が高い内に薪をくべておく必要もある。
農夫にとっては、どの仕事も省略出来ない仕事で、緊急対処の必要なアクシデントであることも、否めない。
しかし、農夫が早朝起床した折に定めた目標は、「畑を耕す」ことであったのであるから、この日は成果が上がったとは言えない。
先日、医療現場の従事者からこのような話を聞いた。自身に与えられた仕事のために勤務時間を目いっぱいに使うようではだめだと。常に勤務時間の3分の1を「ゆとり」の時間として持っておかなければならないのだと。いつ緊急患者が搬送されてくるかも知れない、自分の担当患者の様態が急変することもある。また大きな災害や事故が起これば、医療従事者として何を差し置いても臨まなければならないからだ。人命にかかわる緊張感にあっては、勤務時間の3分の1の「ゆとり」が絶対に必要だという。
「農夫の一日」の改善策と、「ゆとり」の取得策について考えてみた。
1.まずは、場当たり的な仕事の進め方が問題である。デイリー、ウイークリー、マンスリー、イヤリーでの仕事の計画性が必要だ。「農夫の一日」では豚の餌やりは、デイリーのスケジュールの中に組み込まれるべき仕事である。
2.日頃から5分、10分のわずかな時間を活用できているか。トラクター使用後には必ず燃料の補給を行っておくとか、朝起きたら暖炉に薪をくべてから仕事に出かけるなどの作業を習慣化することも時間の有効活用法である。
3.役割分担と優先順位を明確にすること。畑を耕すことが農夫の役割ならば、最優先の仕事として成果を上げられるように、農夫の家族が養鶏を分担するなど、「ヒト」(その人しかできないこと)、「時間」(今すべきこと)に優位性を持たせるべきだ。
4.上記3点を改善することで、仕事の効率向上が図れ「ゆとり」がもたらされる。医療従事者の話にあるように「ゆとり」は緊急事態に備えるリスクマネジメントにつながる。また、自身の業務を見つめなおしたり、新しい商品や企画を生み出すなど緊急度は低いが重要度の高い時間に充当できるのである。
当社の社内で言えば、ブライダルアルバムの制作課程の見直しが良い事例になった。結婚式当日からアルバムの納品までに早くても3~4ヶ月、遅ければ7ヶ月も掛かっていた制作業務が、今や1ヶ月にも満たない。「農夫の一日」の改善がお客様のクレームが引き金になったことは残念だが、上記の1~3のポイントをちょっと意識したことで、成果が現れた。
上記1~4の私の着眼点以外にも、ポイントはあるであろう。自身の置かれた立場や役割によっても、ポイントは異なるはずである。「農夫の一日」はなぜ起こるのか、勤務時間の3分の1の「ゆとり」は何を意味しているのか、各自に置き換えて是非考えていただきたい。
以上
平成21年8月1日の記聞
藤 田 徳 子
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