讃岐(香川県)の婚礼 風習① 「出立ち(でだち)式」
讃岐(香川県)には、地域特有に
古くから伝わる婚礼の風習があります。
そのひとつ 「出立ち(でだち)式」。
嫁ぐ娘が、今までお世話になった実家近くの皆さんに
お別れのご挨拶をする儀式です。
良く似た慣習はその他の地域にも見られますが
「出立ち(でだち)式」は、讃岐(香川県)ならでは言い回しです。
今も、讃岐では、このような風習を重んじる儀式が
数多く残っています。
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【讃岐(香川県)の婚礼 風習】シリーズ
も是非ご覧ください。
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結納熨斗(のし)の上がった花嫁の実家。
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花嫁は、実家で花嫁支度を行います。
花嫁が出る日、母親をはじめ家の人たちは
婚礼行事に専念するため、
その家の家事全般はご近所の女性たちが
手伝いに集まってくれます。
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支度が整った花嫁は、
その家のことを手伝いに集まってくれた、
また今までお世話になったご近所の女性たちに
お礼を述べ、出発の挨拶をするために
姿を現します。
時には、成人の女性だけでなく
子どもたちもこの場に集まることもあります。
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集まった女性たちには
桜茶(または 昆布茶)が、お菓子を添えてふるまわれます。
この日ふるまわれたお菓子は、
讃岐和三盆。
「鶴」、「亀」、「松」と慶を表現するものを
象ったものでした。
「お茶をにごす」、「茶茶を入れる」という意味から、
慶事には煎茶は用いません。
桜茶は、「花開く」、
昆布茶は「よろこぶ」といっためでたいゴロ合わせに
縁起を担いでのことです。
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皆さんから一言づつ言葉がかけられます。
「しっかりがんばりなさいよ」
「身体だけは元気でね」
「はやく、両親に子どもの顔を見せてあげなさい」
「戻ってくるんじゃないよ」
・・・。
結婚生活においては大先輩の力強い激励の言葉です。
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同じ集落(同業、部落)から花嫁が出ることは
地域の人々にとっても喜ばしいことです。
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近所の男の人たちは獅子舞をだして慶びに向かいます。
地域を挙げての、祝の日です。
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ご近所の皆様に祝ってもらった後は、
しばしの時間を家族だけで静かに過ごします。
花嫁は、今までお世話になった感謝の気持ちと
これからも見守っていただけるようにと、
ご先祖様に手を合わせ門出のご挨拶を行います。
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いよいよです。
家を出る間際に、ご両親に最敬意を伝えます。
立派なご挨拶ですね。
※注)
『白無垢姿で 三つ指ついて』という言葉を耳にしますが、
実は、これは形だけのお辞儀で最も悪いお辞儀です。
正座の上体をそのまま傾けながら、
手を膝の横に添って、自然に前に移して
正しい作法で、ご挨拶します。
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母娘・・・。
娘の白無垢姿を見守る視線は
安堵の気持ちの反面で、寂しさに満ちていることでしょう。
古今東西、この気持ちは変わらないものではないでしょうか。
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花嫁が出る日、玄関先に暖簾が出る家も少なくなりました。
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花嫁が生まれ育った家を後にします。
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ご先祖様とご両親への挨拶の最中、
ご近所の皆さんは外で待ってくださっていました。
ご近所の皆さんに見送られながら
讃岐の花嫁の「出立ち(でだち)」です。
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「寿」マークの施された
花嫁タクシー(ブライダルカー)に乗り込みます。
花嫁タクシー(ブライダルカー)は、
後部座席の天井部分が開閉するようになっています。
綿帽子や角隠しをつけた花嫁さんが
乗り降りしやすいようになっています。
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ご近所の皆さんは
花嫁の乗った車が見えなくなるまで見送ってくださりました。
このまま花嫁は、
嫁ぎ先の新郎の実家に出向き
「仏様参り」、「同業(同行 どうぎょう)式」を行います。
その後、新郎と共に挙式に向かいます。
※注)「仏様参り」、「同業(行)式」も
讃岐に古くから伝わる婚礼の風習です。
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「出立ち式」
どうして女性ばかりが集まるのでしょうか?
「花嫁を見たい」という興味があるのが
女性ばかりなのでしょうか?
農耕が中心の讃岐では
同じ集落(同業や部落といいます)の女性は
仕事の上では協力しあう関係にありました。
例えば
日常的な家事仕事では
水場で毎日顔を合わします。
水汲みは女性の役割でありました。
"井戸端会議"というコトバも
女性に使われるように、
地域で共有する水場には女性たちが
集まります。
また
農業に関わる作業では
細かい手作業は近所の女性が共同して行う仕事
でありました。
年齢的には老若あっても、「同僚関係」にあったのです。
娘が一人嫁いで行ってしまうことは、
仕事手が一人抜けてしまうことなのです。
農耕社会における女性コミュニティがもたらしたしきたりが
讃岐の婚礼 風習 「出立ち式」だったのです。
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私は、ブライダルプロデューサーとして創業し15年くらいに
なります。
ブライダルプロデューサーを始めた頃、
讃岐(香川県)には、特有の婚礼の風習がたくさんあることに
驚きました。
しかも、その古くからの風習が
現在もまだ脈々と受け継がれていることに
さらに驚きました。
一方で、
当時まだ若かった私はその風習やしきたりに対して
知識や経験が乏しかったため
文献を紐解いたりしながら、
学んでいこうと試みました。
ところが、
これだけ素晴らしい風習が数多く残っているにも
関わらず、
情報として集約されている適当なものが見当たりませんでした。
地域の年配者に尋ねて歩くか、
当時現役でいらしゃった婚礼業界の重鎮の方々に
教えを乞うことだけが頼みでした。
お客様のご両親様や祖父母様に
教えていただくことこそ、
実践ではとても役に立った覚えもたくさんございます。
モノがあふれたこの時代、
今一度、地域に伝わる風習やしきたりを見つめなおすことが
大事だと思います。
わが讃岐にこれほどまでの "儀式" が
"地域文化" として根付いていることを
誇りに感じざるを得ません。
少しづつですが、
皆さんにも
「讃岐に伝わる婚礼の風習」をお伝えできればと存じます。
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※尚、これらは、私藤田が、独自に集めた情報です。
讃岐(香川県)内でも、地域によって異なる場合もあります。
どうかご容赦くださいませ。
また私の及ばない情報もあるかと思います。
皆様からもご教示いただきたいと思います。
どうぞお寄せください。
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