讃岐(香川県)には、地域特有に古くから伝わる婚礼の風習があります。そのひとつ「出立ち(でだち)式」。嫁ぐ娘が、今までお世話になった実家近くの皆さんにお別れのご挨拶をする儀式です。良く似た慣習はその他の地域にも見られますが「出立ち(でだち)式」は、讃岐(香川県)ならでは言い回しです。
結納熨斗(のし)の上がった花嫁の実家。結納熨斗は、結婚式当日まで飾っておきます。
花嫁は、実家で花嫁支度を行います。門出の日、母親をはじめ家族や身内の方々は婚礼行事に専念するため、ご近所の女性たちがその家の家事全般を手伝いに集まってくれます。
支度が整った花嫁は、手伝いに集まってくれた、また今までお世話になったご近所の女性たちにお礼を述べ、出発の挨拶をするために姿を現します。時には、成人の女性だけでなく、子どもたちもこの場に集まることもあります。
集まった女性たちには、桜茶(または昆布茶)がふるまわれます。お茶菓子には、香川県の特産品である讃岐の和三盆を添えて。「鶴」、「亀」、「松」など“慶”を表現するデザインでおもてなしします。
※「お茶をにごす」、「茶茶を入れる」という意味から、慶事には煎茶は用いません。桜茶は、「花開く」、昆布茶は「よろこぶ」といっためでたいゴロ合わせ。縁起を担いでのことです。
皆さんから一言づつ言葉がかけられます。「しっかりがんばりなさいよ」「身体だけは元気でね」「はやく、両親に子どもの顔を見せてあげなさい」「戻ってくるんじゃないよ」・・・。結婚生活においては大先輩の力強い激励の言葉です。
同じ集落(同業、部落)から花嫁が出ることは、地域の人々にとっても喜ばしいことです。近所の男の人たちは、獅子舞を出して慶びに向かいます。
地域を挙げての、祝の日です。
ご近所の皆様に祝ってもらった後は、しばしの時間を家族だけで静かに過ごします。花嫁は、今までお世話になった感謝の気持ちとこれからも見守っていただけるようにと、ご先祖様に手を合わせ、門出のご挨拶を行います。
いよいよ出発の時、ご両親に最敬意を伝えます。
※『白無垢姿で 三つ指ついて』という言葉を耳にしますが、実は、これは形だけのお辞儀で最も悪いお辞儀です。「正座の上体をそのまま傾けながら、手を膝の横に添って、自然に前に移して」。正しい作法で、ご挨拶します。
母娘・・・。娘の白無垢姿を見守る視線は安堵の気持ちの反面で、寂しさに満ちていることでしょう。古今東西、この気持ちは変わらないものではないでしょうか。
ハレの門出の日、玄関先に暖簾が出る家も今では少なくなりました。
花嫁が生まれ育った家を後にします。
ご近所の皆さんに見送られながら、讃岐の花嫁の「出立ち(でだち)」です。
花嫁の乗ったブライダルカーが見えなくなるまで、皆さん見送ってくださいます。このまま花嫁は、嫁ぎ先の新郎の実家に出向き「仏様参り」、「同業(同行 どうぎょう)式」を行います。その後、新郎とともに挙式に向かいます。
※「仏様参り」、「同行(業)式」も讃岐に古くから伝わる婚礼の風習です。
「出立ち式」
どうして女性ばかりが集まるのでしょうか?
「花嫁を見たい」という興味があるのが、女性ばかりなのでしょうか?
農耕が中心の讃岐では同じ集落(同業や部落といいます)の女性は、仕事の上では協力しあう関係にありました。例えば、日常的な家事仕事では、水場で毎日顔を合わします。水汲みは女性の役割でありました。"井戸端会議"というコトバも女性に使われるように、地域で共有する水場には女性たちが集まります。また農業に関わる作業では、細かい手作業は近所の女性が共同して行う仕事でありました。年齢的には老若あっても、「同僚関係」にあったのです。娘が一人嫁いで行ってしまうことは、仕事手が一人抜けてしまうことなのです。農耕社会における女性コミュニティがもたらした「しきたり」が讃岐の婚礼 風習 「出立ち式」という地域文化として、今なお受け継がれているのです。
※尚、これらは、私藤田が、独自に集めた情報です。讃岐(香川県)内でも、地域によって異なる場合もあります。
どうかご容赦くださいませ。
また私の及ばない情報もあるかと思います。皆様からもご教示いただきたいと思います。どうぞお寄せください。